私にとっての誘導加速器の始まりから、早くも30年が経とうとしている。
修士課程の私にとっての師匠とも言える人は、八井先生、升方先生はもちろんであるが、もう一人重要な師匠は、Dr. Stanlay Humphlies Jr. である。
Humphliesの論文は片っ端から読んだと思う。彼も、パルス電源の専門家であり、又、中性化された軽イオンビーム(neutralized intense pulsed light ion beam)の誘導加速の先駆者だった。
そもそも、誘導加速器というものが面白かった。入り口と出口が金属筐体で短絡しているにもかかわらず、その中を粒子ビームが通ると加速されるのである。
最初は、原理的になかなか納得できずにいた。電磁気学を正しく理解していないと勘違いしてしまう落とし穴がある。
しかも、電荷的にも電流的にも中性なイオンビームを加速するというところに技あり的なところがあり好きだった。
結局、私の修士論文の内容は、カーボン、窒素などの中くらいの質量のパルスイオンビームの発生と収束、そして、このイオンビームの誘導加速器の設計と組み立てまでとした。時間切れで、確認試験は後輩にゆだねることになった。
当時としては、まだ、大型のフェライトコアを使ったパルスパワー装置というのは前例が無く、Humphliesの論文を参考にして設計した。フェライトコアは当時のTDKの秋田で製作してもらった。このころから、パルスパワーのハードウエアに対する関心は高かった。もちろん、まだ、就職先など考えもしていなかった時のことであるが。
横磁場でイオンビームを中和化している電子のみを阻止し、イオンだけを加速する。
加速後は再度、周辺電子で中和化する仕組みである。このころの経験が、その後のKEK向けの誘導加速器、宇宙研向けの誘導加速器、原研向けの誘導加速器設計に生かされることになった。更には、KEK向けのプリチョッパー誘導加速器にもつながっていく。もちろん、コアの特性を熟知していくことは、更には、パルストランス、磁気スイッチの技術へと発展していった。
Dr. Stanlay Humphlies Jr.の当時の文献
http://accelconf.web.cern.ch/AccelConf/p79/PDF/PAC1979_4220.PDF
http://lss.fnal.gov/conf/C7910292/p232.pdf
http://www.osti.gov/bridge/servlets/purl/456328-k2v4Ty/webviewable/456328.pdf
私の卒業後に後輩たちが完成させた論文は下記のとおり。
Inductive postacceleration of charge- and current-neutralized, intense pulsed ion beam
Tanabe, T.; Kanai, A.; Takahashi, K.; Tokuchi, A.; Masugata, K.; Ito, M.; Yatsui, K.
Physical Review Letters, Volume 56, Issue 8, February 24, 1986, pp.831-834
An induction accelerator system has been successfully operated to postaccelerate an intense pulsed ion beam that is highly space-charge and current neutralized. An annular ion beam (energy 90 keV, current 5.7 kA, pulse width 750 nsec) extracted from an applied-Br magnetically insulated diode is injected into the induction accelerator, where a short pulse (210 kV, 50 nsec) is applied. Measurements of beam energy by a Thomson-parabola spectrometer before and after the postacceleration have confirmed the increase in beam energy of H+ up to ~240 keV after being postaccelerated.