パルスパワーの応用事例(3)
以前紹介したがん治療応用とほぼ同様の電源システムとなるが、瞬間的に高電圧高出力のパルスを繰り返し発生し、その電圧パルスを電子銃に印加することで、パルス状の電子線が発生される。更に、同様の高電圧パルスをマグネトロンやクライストロンなどの電子管に印加するとパルス状の強力なマイクロ波が発生される。
このマイクロ波を電子線加速管に供給し、前述の電子線をこの加速管に通して加速すると、強力な高エネルギーパルス電子ビームになる。加速管により加速された電子ビームをがん細胞に照射すると、がん治療機になるが、この電子ビームを医療機器や食品などに照射すると、雑菌が死滅し滅菌処理される。
日本国内では、電子線などの放射線を使用した食品の滅菌処理はまだ認められていない。(唯一、北海道の士幌農協で実施されているジャガイモの発芽防止を目的とした放射線照射だけが現在、認められている)。中国などの海外では、食品の電子線照射は行われており、特に、スパイス類の滅菌処理は、高熱滅菌処理に伴う風味の低下を引き起こすことがなく、高い製品品質の得られる滅菌方法となっている。
日本国内では、電子線滅菌は現在、主に、医療器具や薬品の包装などの滅菌に使用されている。 製造工程全てに高いクリーン度を維持し、雑菌が混入しないようにする製造ラインに比べて、簡易的な製造ラインで製品を製造し最終出荷工程にて電子線照射による滅菌工程を組み込む方が、製造ラインの初期費用及びランニングコストでメリットを出せる場合も多いと考えられる。
電子線のエネルギーは5MeVから10MeVが使用されている。5MeV以上のエネルギーになると、電子線の透過能力も高くなり、従来から使用されてきたγ線による滅菌に匹敵する滅菌ができる。高エネルギー加速器の技術進歩に伴い、高出力パルスクライストロン、電子加速管の性能向上と高電圧パルス電源の技術向上により、構成機器が小形化、低コスト化が進んでおり、今後さらに電子線を使用した滅菌装置の利用が拡大するものと期待している。
パルスパワー技術をベースとした高繰り返しパルス電子ビームを使用した滅菌装置の主な国内メーカーには三菱重工やIHIが上げられる。
電子線滅菌装置の構成(三菱重工HPより引用)