高エネルギー円形加速器にはアボートキッカーマグネットが必要である。直径数百mと言った大型の円形加速器の中には高エネルギーの電子、陽電子、イオンなどが光の速さに近い極めて高速で回っている。これらの粒子は真空容器の中を磁石の力で制御されながら、壁に衝突しないように回転してる。ところが、加速器に異常が起きたり、制御に問題が発生した場合は、急峻にこれらの高速粒子を回収しないと、粒子が壁に当たり、強力な有害放射線や電磁波を発生させるばかりでなく、壁に穴をあけるなどの障害を与える。アボートキッカーはこのように加速器を緊急停止する場合に、急速にマグネットに電流を流して、高速粒子を安全に回収壁に回収させるためのものです。
円形加速器の中で高速粒子は円形軌道上に連続的に存在しているが、この円形軌道上に一部高速粒子が存在していない隙間がある。アボートキッカーはこの隙間部分が通過するわずかの時間の間に電流を立ち上げることで、この隙間の後から侵入してくる高速粒子を回収壁に捕捉する。アボートキッカーの電流立ち上がりが早くなると、その分、円形軌道上の粒子の隙間は狭くすることが出来るので、加速器の中を周回する粒子の量を増やすことが出来、加速器の利用効率が向上する。
従来のアボートキッカーの立ち上がり時間は1μs程度あり、それがさらに0.5μs程度まで改善されてきた。今回、われわれが開発したアボートキッカー電源はそれを更に0.1μsにまで短縮出来ることが確認できた。アボートキッカー電源は立ち上がりを早くしようとすると、電源の電圧が100kV以上と非常に高くなり、その放電スイッチの実現が技術的に非常に困難であったが、今回、磁気圧縮回路と言う新しい回路方式を使用することにより、従来方式に対して圧倒的な高速化の見通しが立った。
今後、更に、細かい点で改良を行い、次世代の加速器の実現に貢献していきたいと考えている。
パルスパワー技術研究所が開発した実験試作機の第6号となる。
高速アボートキッカー電源(奥が水平用、手前が垂直用)
水平アボートキッカー電源の出力電流波形
100nsで立ち上がり、10μs電流が持続している。